共同通信配信
 
「視標」東京五輪あと500日

オリンピックと「その他」 現世を忘れさせる祭か

2020年7月の東京五輪開幕まで、12日であと500日。大会組織委員会は聖火リレーを福島県から始めるなど、東日本大震災の復興に寄与する五輪をうたう。では被災県民の心情は-。福島県在住の芥川賞作家、玄侑宗久さんが寄稿した。

この国はつくづく祭やイベントが好きなのだと思う。もとより「政」とは「国民が税を出すことを鞭で強制すること」(白川静『常用字解』)だが、それを「まつりごと」と訓んだのはこの国の先祖たちだ。おそらく昔から、音楽や舞踊、香りなどで人々を熱狂へと誘い、重要な事柄を決めてきたのだろう。

しかし祭事には反面、重要な現世の事柄を忘れさせるはたらきがあることも忘れてはならない。役職や立場を離れて神の前で平等になり、現世を忘れていられるから祭は楽しいのである。

少子高齢化に伴う福祉や幼児教育の問題、若者が正規職に就けず、生活保護費が増大するなど、東日本大震災以前から引きずる深刻な問題は多かった。震災後は新たに電力についても真剣に考えるべき時だったはずである。

福島第1原発の事故で、ドイツはその危険性や事故後の厄介さに迅速に反応したが、その後も方針の変わらないこの国では、特に福島県内外で賠償や除染を巡り、「無主物」と呼ばれた放射性物質による思わぬ分断に悩まされた。家族が離ればなれになるだけでなく、会話が成り立たなくなるといった事態は、どんな戦争でも起こらなかったのではないだろうか。

管見では、こうした問題に真剣に取り組むべき震災から2年半の時、およそ7年後(つまり来年)の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定した。しかも初めての体験を熱望するイスタンブールやマドリードを押し切ってである。

当然、若者の働き手が足りないわけだから、その準備を進めるため、被災地の防潮堤建設作業員や除染作業員などに「東京へ来ないか」と誘う「人足上げ」がやってきた。「アンダー・コントロール」と明言してあるかいわいの「復興」よりも、いまだ完成していない競技会場準備のほうが国にとっては大事に決まっている。すべてはオリンピック成功のため、祭の無事のため、関係者は「オリンピックとその他」という頭になって物事を進め始めたのである。

地震国の原発に不安はあっても、あるいは廃棄物処理が解決できなくても、今はオリンピックが近いのだしどうしても電力余裕がほしい。足りない労働力もこの際、移民に頼ろう。自民党特命委員会は原案に「移民とは、入国した時から永住を許可された人」と書き込み、だから「移民じゃない」と言いつつ戦時中に次ぐ規模の外国人労働者受け入れを急いだ。彼らの宗教や亡くなった場合の扱いなど、祭のあとのことは今は割愛である。

こうして祭の前だからと重要な問題は先送りし、「この際だから」と拙速な決定を続けるうちに、また次の祭がやってくる。2025年には大阪で万博、翌年には名古屋地区での夏季アジア競技大会も控えている。「あと500日」などと言われて浮かれるまえに、じっくり冷静に「その他」に向き合うべきではないだろうか。


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