2018年2月 中日新聞・北陸中日新聞・東京新聞連載 うゐの奥山

第六九回 ^目(いのめ)


以前、伊勢神宮にも「ダビデの星」があると聞いて驚いたのだが、当時はまだネット環境のない時代だった。ところが今や、グーグルで「伊勢神宮」「ダビデの星」と入れて検索すると、二万件ちかくもヒットする。なかにはそれを以て、日本人とユダヤ人が同じ祖先だと主張するサイトもある。しかし私は、出てきたサイトを詳しく読むまえに、最初にその話を聞いたときの印象がどうしても甦(よみがえ)ってしまう。

要するに双方とも「光」をデザイン化したのだろうし、こういうシンプルな造形の一致は、洋の東西に跨がっても起こるのではないか。つまり偶然の一致だと、私は感じたのだった。じつは初期の薬師如来坐像の造形なども、主な点を結ぶと星型が現れるのである。

同じことがハート型についても言えるだろう。ハート型の起源は古代エジプトともギリシャとも言われるが、いずれにしても一般的には心臓を象(かたど)り(女性のお尻や胸の輪郭だという説もある)、愛情や恋愛感情のシンボルとして世界中に広まった。トランプの絵柄にハートを採用したのはドイツが最初だった。

しかしこれが、日本でも古くから使われたマーク「猪目(いのめ)」と瓜二つなのだが、この一致はどうなのだろう。

じつはこの「猪目」について、我が福聚寺の新しい唐破風(からはふ)の懸魚(けんぎょ)にあるのを見てあらためて考えた。どう見ても「ハート型」に見えるが、「猪目」と呼ばれるこの図案は何に由来するのだろう。玄関部分の責任者である鏡将行(かがみまさゆき)さんに訊いてみると、丁寧に教えてくれた。

どうやら起源は中国で、飛鳥・奈良時代に仏教と共に流入したらしい。日本でも古来、神社仏閣の装飾などさまざまな場面で用いられており、憶いだすだけでも懸魚や華鬘(けまん)、刀の鍔(つば)などのほか、神社の鈴の割れ目の両端もそういえば猪目型である。仏具だけでなく、一般の箪笥の金具にもよく見かける。

鏡さんは「火除け、魔除け」だと言うのだが、調べてみるとどうやら五行説が背景にあるようだ。十二支に四季を対応させると、冬は「亥・子・丑」に当たる。このうち「亥・子」は、五行では「水」に属する。因みに春は「木」で夏は「火」、秋は「金」で「土」は土用として各季節の間を埋める。

そうなると、猪目に限らずネズミの眼でもよかったのかもしれないが、ネズミでは神聖味がないし、生理的に嫌う人も多い。だから猪なのだろうか……。

いずれにしても「水」を象徴する「亥」は「火」に克つ、ということで、火伏せのシンボルとして採用されたようだ。そういえば、懸魚の上部に突き出た「樽の口」という装飾も酒樽の蓋からのデザインで、やはり火伏せの意味があるらしい。

お寺では毎朝「火徳」回向をして火伏せを祈るのだが、それほどに火事を防ぐことがこの国では重要だったのだろう。うちのお寺でも定期的な防火訓練が義務づけられているし、万が一の場合に避難させる優先順位も決めてある。

そんなこんなで一応「猪目」の意味合いについては納得したのだが、どうしても最後に残る疑問は、猪(いのしし)の眼が本当にハート型に見えるか、ということだろう。

いや、その前に、唐の国際都市であった長安などに、西域からハート型が流れ込んでいなかったか、という検証も必要かもしれない。

特に仏教界で猪目が盛んに使われたのは、お釈迦さまがその樹下で成道された菩提樹の葉に似ていたから、とも言われるが、そうなると尚更、意味づけよりも形そのものの美しさを求めた結果とも思えてくる。ハートであれ猪目であれ、由来は定かじゃないが、今後も決して消え去りそうにない優美な形であることは間違いない。


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