2018年3月 中日新聞・北陸中日新聞・東京新聞連載 うゐの奥山

第七〇回 国土について

国土について考えてみた。最近は特に北海道などで、外国人が土地を買うケースが増えているという。外国に住む人でも所有できる土地がはたして国土と呼べるのか……、そんな疑問からである。

昔の日本人はその土地ごとに神さまがいて、そこに住むことは特定の氏神さまに守られることだと考えていた。だから氏子として氏神さまを祀るのは当然の義務だったのである。

しかし「信教の自由」とやらが喧伝されるようになると、そう考えるかどうかは個人の自由、ということになってしまった。日本人でさえそう思わない人が多いご時世、まして外国人ならそんなことを思うはずもなく、しかも彼らが買ってその土地の所有権を主張するなら、氏神さまだって居場所がなくなるに違いない。

こうした問題をなんとか回避できないものかと思い、私は『日本国憲法』を読んでみた。きっと憲法ならば、きちっと国土について規定してあるに違いないと思ったのである。

しかし、……ない。『日本国憲法』には、一行たりとも国土についての言及がないのである。

調べてみると、現在の憲法が成立する以前に提案された憲法私案のなかには、「土地ハ国有トスル」と規定する人もいた。しかしこの案では共和制が目指され、要するにスターリン憲法をモデルに土地や生産手段の国有化が考えられていた。

ポツダム宣言の受諾により、この国では領土の変更が余儀なくされた。しかしもとよりこの国の憲法(大日本帝国憲法)には国土(領土)についての規定がなかったから、わざわざ憲法を改訂して領土を規定する必要はない、という立場の人さえいた。もしかすると当時は、また国土が増える可能性を想定し、改訂の際にも規定しなかったのではないか……。

一方で今の日本では、根本的な規定がないままに、土地についてのさまざまな規則が作られている。たとえば「大深度地下利用法」という法律をご存じだろうか。

以前、東京都で地下五五メートルの深さに道路が完成したニュースに驚いた方もいるかもしれない。しかも地上に住む人々に充分なコンセンサスも得ないままに、である。そのことを合法化するかのように、この法律では地下四十メートルより下、あるいは支持地盤上面から十メートルより下は、公共の利用に関するかぎり認めるという。しかもこの法律の適用地域は全国ではなく、首都・近畿・中部の三大都市圏に限られる。その他の地域では、それが問題になるほど地下利用もないでしょうと、見くびったような話である。

たとえば井戸を掘る時も、大部分の本州地域や九州・四国などではどんな深さまで掘ってもかまわないが、今申し上げた地域では四十メートルまでしか掘れないということになる。水脈のことを考えると、やはり地下の使用についても一貫した考え方があるべきではないか。

一方で、東京駅の復元工事の際など、「空中権」を売って五百億円を作ったと言われる。その土地にはこの高さまで建てることが許されるというルールの元で、うちは二階までしか建てないという場合、上空の使用権を売り買いできるというのだ。買ったほうは、これ以上建ててはいけないという高さでも上積みして建てられる。まったくハチャメチャである。金次第のご都合主義と言うしかない。

私はだから、憲法に是非とも「国土」についての記述が欲しいと思うのだが、そう言ったら改憲派と呼ばれ、護憲派の人々から指弾されるのだろうか。両者とも、もっと冷静に、もっと具体的に話しましょうよ。


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