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特集 美しい日本の言葉

海と阿弥陀堂

 いわきの豊間や四ツ倉などの海岸は、私にとって海そのもの。子供の頃、驚きながら見つめ、怯えながら入り、そしてザリガニなどを追って楽しく駆け回った海である。
 叔父がいわきで学校の先生をしており、そこへ泊まるのが唯一海で遊べるチャンスだった。一つ違いの従弟がいたことも楽しさを倍加してくれた。
 子供の頃は白水阿弥陀堂などに連れて行かれてもたいして感動できなかった。奥州藤原氏の流れを汲む阿弥陀堂建築、しかも福島県の建造物として唯一の国宝だと叔父に言われても、そんなものかと思うだけ。あの優美なフォルムが美しいと感じられたのは、たぶん僧侶になってからだと思う。
 しかしそんな景色が、思い出と共に一瞬にして崩れた。
 きっと阿弥陀堂は、人々の技術と愛情とで再興されるだろう。
 しかし海のほうは、果たしていつ、子供の遊ぶ場所として復活できるのだろう。
 愛情のない技術だけが生み出した巨大な化け物は、子供だけでなく景色の復興さえ拒んでいる。

2011/07 一個人(KKベストセラーズ)

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タグ: 復興, 東日本大震災, 福島県・三春町