うゐの奥山 第43回

線状降水帯

 九月十日から十一日にかけて、奇しくも世界的な災厄記念日に、北関東から東北地方が未曾有の降水災害に見舞われた。茨城、栃木、福島、宮城、山形、各県に、洪水や土砂崩れが起こり、死者や多くの避難者を出した。収穫目前の水田被害も悲惨である。
 長月とも呼ばれる長雨の9月だが、多いところではそのひと月分の降水量の倍以上が一日で降ったのだから尋常ではない。
 普通の台風なら、通り過ぎた後の青空を期待し、ひたすら怺えて待つのだが、今回の雨雲は待っていても一向に通り過ぎなかった。
 上空に氷点下9度の「寒冷渦」があり、そこに温帯低気圧化した台風18号や、東から北上する台風17号の湿った空気が合流した。どうやら「線状降水帯」と呼ぶらしいが、幅二〇〇キロ、長さ五〇〇キロほどのエリアに雨雲が集まり、発生しつづけたようなのである。
 MJO(マッデン・ジュリアン振動)と呼ばれる現象も取りざたされ、最近の地球には確かに異常気象と呼ぶべき事態が多い。
 しかし一方で、大地そのものの吸水性の低下を問題にする人々もいる。多くの土木工事は、舗装にせよU字溝にせよ、その場に降った雨をその場で吸い込ませず、先送りするやり方である。先送りされた水はあまりにも膨大になり、川も呑み込みきれなくなるのだ。
 またU字溝や石垣の積み方にも、土の通気や吸水への配慮がないため、土そのものが吸水性を失い、柔軟性をなくし、雨が大量に降ると崩れやすいのである。
 じつはお盆明け以降、お寺の境内や墓地を専門家に診てもらい、土の吸水性や通気性を回復するための処置をしていただいた。エアスコップというもので地面に溝を作り、そこに屑炭や竹、木の枝葉などを置いていくのだが、さほど深くない溝でもその断面から通気が促され、土中のバクテリアも増えて、次第に地力が回復するというのである。
 一緒に観察してみると、なるほど枯れ枝やてんぐ巣病の目立つ櫻の根元などは、コンクリートで固めてあったり通水を無視した石垣であったりする。樹勢が弱まる理由は、明らかに根が生える土の環境の問題なのだ。土の治療とも言うべき作業が施された場所の木々は、驚いたことに翌日には新芽を出し、病(わくら)葉(ば)を落としたのである。
 処置を終えた境内や墓地は、長雨つづきでもむしろ潤っていくように思えた。あちこちに生えた大きな木々が、ラジエーターのように地中の澱んだ空気を放出し、新鮮な空気を吸い込んでいく。
 私の住む街は、今回の線状降水帯の東の端あたり。豪雨の時間も被害の甚大な地域ほど長くはなかったが、そのことの幸運に感謝しつつ、同時に今後の大地とのつきあい方を肝に銘じた今回の豪雨なのであった。

2015/10/31 東京新聞ほか掲載

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