エッセイ
天真を養う 第4回 内観の秘法
(2021/07/01 墨 2021年7・8月号(271号)(芸術新聞社)掲載)
前回に続き、白隠禅師の独自の教えに学びたい。禅師は八十四歳の天寿を全うしたが、生涯を通して頑健だったわけではない。二十六歳の頃「禅病」に罹り、「名医を探ると云へども百薬寸効なし」という状態に陥った。症状としては「心火逆 […]
日曜論壇 第99回 経過観察
(2021/06/20 福島民報掲載)
最近、「経過観察」という医療用語に些(いささ)か思うところがあった。 たとえば脳内の血管をMRI(磁気共鳴画像装置)で撮影すると、腫瘤(しゅりゅう)が二つほどあったとしよう。医師が画像を見ても「悪い顔つきではない」と […]
特集 災厄と祈り 災厄と心の自由
(2021/07/01 UCカード会員誌『てんとう虫』2021年7+8月号/セゾンカード会員誌 『express』2021年7+8月号掲載)
ここ十年以上、日本人は久しく忘れていた災厄に集中的に見舞われている気がする。東日本大震災という津波を伴う大地震、噴火、山火事、竜巻、台風や線状降水帶による大雨被害、また海では海水温の上昇と乱獲による海産物枯渇の危機が叫 […]
病気平癒、修羅克服への祈り
(2021/06/01 うえの 2021年6月号掲載)
すこし大袈裟かもしれないが、西洋と東洋の人間観の一番の違いは、アイデンティティ(自己同一性)を認めるかどうかではないかと思う。イデアを奉ずる西洋では多面多臂が登場すると必ずや悪者、化物であるのに対し、東洋では阿修羅や千 […]
へその復興
( 抒情文芸 2021年夏号(179号)掲載)
子供の頃から、へそはなんとなく大事なものと思ってきた。なにより母親の胎盤とつながり、血管を通して栄養をもらっていた名残だし、腹膜に直接つながってもいる。しかしそんな理屈を知る以前から「雷さまに取られるぞ」などと脅され、 […]
日曜論壇 第98回 寝耳に処理水
(2021/04/25 福島民報掲載)
最近、政府が会議を開く以前に結論を決めているケースが目につく。「緊急事態宣言の解除」も専門家に諮ると言いながら、事前に「決定する見通し」と報道される。専門家をコケにしたこのやり方、いや、コケにされても怒らない専門家ばか […]
天真を養う 第3回 呼吸と脱力
(2021/05/01 墨 2021年5・6月号(270号)(芸術新聞社)掲載)
白隠「楊柳観音図」 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 命を養う上で、最も重要なのは呼吸だろうと思う。普段は自律神経が勝手に制御してくれるから意識しない人も多いが、意識すれば […]
共同通信社配信記事 まるで刹那的な祝祭 撤退は今が最後の機会
(2021/04/16 共同通信社配信記事 福島民報・福島民友・京都新聞・長崎新聞・日本海新聞ほかに掲載掲載)
新型コロナウイルス感染拡大で、東京五輪の聖火リレーは大阪府内の公道での走行が中止された。松山市や沖縄本島でも同様の処置が取られるなど混乱の中、五輪開幕へ向かう日本。福島県在住の僧侶で芥川賞作家、玄侑宗久さんが寄稿した。 […]
論 震災10年 10年という区切り
(2021/03/12 中外日報掲載)
東日本大震災から10年が経った。ここでは復興の現状とこの10年の変化を訊(き)かれているのだろうが、これに答えるのは非常に難しい。 まず10年という期間は、震災と関係なく人をあまりに大きく変化させる。以前は歩けた人も […]
東日本大震災10年 いま読むべき5冊 消える記憶 思い起こそう
(2021/03/08 河北新報掲載)
東日本大震災の記憶は、人によってそれぞれ違う。震災のつらい思いを忘れたい人もいる。ただ、震災10年を区切りとして、忘れている記憶をもう一度思い起こしてほしいという思いも私にはある。 自分の体験とは違った新たな体験をす […]
文藝春秋2021年4月号 巻頭エッセイ 「除染」の除染
(2021/03/10 文藝春秋掲載)
東日本大震災による福島第一原発の事故以後、新たに世に出た日本語に「除染」がある。それまでは専門家しか使わなかったはずだが、今では哀しいことに誰もが知る言葉になってしまった。 ある辞書によれば、除染とは「被曝により皮膚 […]
天真を養う 第2回 無 事
(2021/03/01 墨 2021年3・4月号(269号)(芸術新聞社)掲載)
栄西禅師が書かれた『喫茶養生記』序文には、「天、万像を造りしに、人を造るを以て貴しと為す。人、一期(いちご)を保つに、命を守るを以て賢しと為す也」とある。天は人を造ることを最も重視したのだから、人は天から授かったその命 […]