書籍情報
「空」であるがゆえにすべてはつながっている――ブッダの悟りを描いた『華厳経』の世界を、芥川賞作家がやさしく語る。
『華厳経』は4世紀頃、インド北方の中央アジアで生まれた。
お釈迦様が菩提樹の下で深い禅定に入り、「悟り」を開いた時に見えた世界をそのままに描いたお経であるため、難解とも言われるが、般若系統の「空」の思想と唯識系統の「三界はただ心である」という思想が昇華された華厳思想は、「大乗仏典の頂点」とも言われている。
一塵の中に世界が宿り、一瞬の中に永遠がある「一即一切、一切即一」の世界
「太陽の輝きの仏」によって衆生が遍く光に照らされる「序列のない」世界
すべてはただ心が作り出す「絶対的な価値のない」世界
物事の来歴、理由、原因は幾重にも重なり、探っても尽きることのない「重々無尽の縁起」の世界
自他が個別性を残したまま、礙(さまた)げなく通じ合うことができる「事事無礙法界」
我々一人一人の菩薩行(雑華)によって荘厳される「雑華厳飾」の世界――。
本書では華厳とは関わりの深い禅の僧侶で、芥川賞作家でもある著者が『華厳経』の世界をやさしく語る。講演をベースにした書き下ろしであるため、聴衆に応じて量子力学や同期、植物や人体、七福神や老子荘子、日本の神々まで喩えに使って、わかりやすく「華厳という見方」を説いていく。
終戦直後、鈴木大拙はいがみ合う世界に平和をもたらすのは華厳思想しかないと思い到り、『華厳経』を研究してその教えを語り始める。著者はコロナ禍とウクライナ戦争に衝撃を受けてそのことを思い出し、併せて、天然痘と飢饉で人々が苦しんでいた時代に、華厳経の教主を大仏として建立した聖武天皇の深い祈りを思い、改めて『華厳経』を読み直し、その世界を語り始めた。本書はその一端を書籍にしたものである。
※コロナ禍以後3年間の講演を元に書き下ろした本です。
- はじめに
- 第一章 華厳という見方――鈴木大拙翁とともに
- 今の世を覆う「覇権主義」
聖武天皇が深く傾倒した華厳の教え
毘盧遮那仏の光が遍く一切を照らす
月の光を「菩提心」としてイメージする
みんな「雑」で序列はない
七福神の宝船が象徴する世界平和の姿
すべては心が作り出している
一滴の雫が大宇宙を宿している
華厳思想の四つの見方
自他が礙げなく溶け合う「事事無礙法界」
事事無礙法界は「大悲心」によって実現する
五十三人の師に教えを乞う善財童子の旅
華厳の教えで日本仏教をまとめなおす
我々の菩薩行こそ、世界を飾る花である - 第二章 「覇権主義」を溶かす思想――華厳と日本仏教の教え
- 東日本大震災十三回忌に思うこと
「覇権主義」に染まる世界
「覇権」ともう一つの「ハケン」
脳内に浸透する「覇権思想」
未来のシミュレーションに溢れる世の中
現象の半分は「因果律」では説明できない
「目的合理性」が苦しい今をつくりだす
異なる考え方や偶然を排除する風潮
『忘れられた日本人』のコミュニケーション合理性
ラオスの会議には「レジュメ」がない
覇権主義を溶かすのは「宗教の行」
同じ場所にいるだけで、命は「同期」する
生成AIによる極端な功利主義のゆくえ
目標を持ちながらも自由であるために - 第三章 華厳の世界観――ロゴスとレンマ
- 大乗仏教の完成形としての『華厳経』
お釈迦さまが悟られた「縁起の法」とは
ロゴス的な世界とレンマ的な世界
量子力学の登場によって「客観」がなくなった
「相補性」を含んだインドの論理学
「相即相入」して生き延びた我々の命
他宗教の神も包摂した仏教
「気」は因果律を超えた世界を知るヒント
ある種の必然は「偶然の顔」をしてやってくる
「相即相入」の中にある我々の身体 - 第四章 縁起について――お釈迦さまの悟りとは
- 悟りを開いた時、お釈迦さまが呟いたこと
尋常ではない「不殺生」へのこだわり
縁起の法=悟りの世界
物事が起こる二つの原理――「異時」と「同時」
「量子もつれ」を認めなかったアインシュタイン
アインシュタインが量子力学を拒絶した背景
「因果」よりも「縁起」に注目した南方熊楠
脳をもった我々とは異なる植物の智慧
ホモサピエンスにおける言葉や音楽の発生
人類に残された「事事無礙法界」の力
荘子が教える「私」を放棄する方法
華厳の世界観は「気」の考え方によれば理解しやすい
全身の細胞は各々にあらゆる能力をもっている
人生の最期に悟る「事事無礙法界」 - おわりに
紙書籍
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