エッセイ

虫愛づる科学者

(2019/10/25 中村桂子コレクション第4巻第3回配本の月報掲載)

 昔から、格好いい方だと思ってきた。最初はテレビに出ていた白衣姿やその美貌の影響が大きかったかもしれない。「生命科学」という素敵な言葉も、中村先生の肩書きで初めて知ったような気がする。  最初にお目にかかったのは二〇〇六 […]

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烏賊と原発

(2019/10/06 福島民報掲載)

 私は六十三歳だが、近ごろ驚くほど体質が変わったような気がする。何より好きじゃなかった烏賊(いか)が食べられるようになり、いやむしろ旨(うま)いとさえ思うようになった。どこか深いところで宿年の拘(こだわ)りが解けたのだろ […]

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走馬燈

(2019/08 東京新聞ほか掲載)

 むかし修行道場にいた頃、だから三十年以上前だが、地上七メートルほどの木の枝から落ちたことがある。いや、枝からというより、枝ごとと言ったほうが正確だろう。栗の木の枝下ろしを近所から頼まれ、雨が降っているのに大勢で出向いた […]

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瑞西の歌声

(2019/08/04 福島民報掲載)

 七月下旬、福島市の音楽堂で「ふくしま復興支援コンサート スイス国と共に」と題した大がかりなコンサートが行なわれた。当初は私が理事長を務める「たまきはる福島基金」主催の予定だったのだが、福島市がスイスのホストタウンになっ […]

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鱗 敷

(2019/07 東京新聞ほか掲載)

 お寺の改修工事も終盤にはいり、いよいよ境内の敷石を直しはじめた。  禅寺の敷石の基本形は「鱗敷(うろこじき)」といい、正方形の板石の角と角とを突き合わせて置く。歩幅が合わないと歩きにくいため、先代住職(つまり私の父)が […]

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敷地内引越し

(2019/06 東京新聞ほか掲載)

 このところ、福聚寺は引越しで慌ただしい。そんなことを電話で答えたら、「えっ、お寺が引越しですか」と驚かれた。なるほど、通常は引越しといえば、別な場所に移り住むこと。まさかお寺が引越すとは誰も思わないだろう。実際、私が申 […]

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お墓の変化

(2019/06/09 福島民報掲載)

 先日、岩手県の一関市へ出かけてきた。祥雲寺さんが始めた樹木葬墓地が二十周年を迎えるため、記念講演を頼まれたのである。  思えば墓地は、時代によってさまざまに変遷してきた。今は「○○家之墓」という棹石(さおいし)に法名碑 […]

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半僧坊

(2019/05/31 東京新聞ほか掲載)

 三月の初め、浜松市奥山の方広寺に出かけてきた。道場の先輩である安永祖堂老師の晋(しん)山(さん)式(しき)(住職就任のお披露目の儀式)に随喜するためである。安永老師は天龍僧堂を出たあと、国際禅堂の師(し)家(け)あるい […]

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使わせてもらってます

(2019/04/14 福島民報掲載)

 中国と日本の関係は特別である。大まかに言えば、十五、六世紀までの日本は、中国からさまざまな文化・文物を取り入れ、独自のアレンジを加えながら日本化してきた。文字はその代表的なもので、仮名というアレンジ作品は産みだしたもの […]

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柔弱という強さ

(2019/04/10 月刊PHP掲載)

 性格が強い、弱い、というのは、どうも分かりにくい。一般的には、自分の思いや主張を何が何でも通そうとするのが「強い」のだろうし、困難ならすぐにでも変化させるのが「弱い」のかもしれないが、本当にそうだろうか?  道場の先輩 […]

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マレーシアでの「同期」

(2019/03/31 東京新聞ほか掲載)

 先日、年に一度だけの休暇旅行で夫婦でマレーシアに行ってきた。震災後しばらくは海外に興味が向かず、たいてい国内の離島や温泉が多かったのだが、なぜか急に行ってみたくなったのである。  べつに、マハティール氏が九十二歳で首相 […]

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「視標」東京五輪あと500日

(2019/03/12 共同通信配信掲載)

オリンピックと「その他」 現世を忘れさせる祭か  2020年7月の東京五輪開幕まで、12日であと500日。大会組織委員会は聖火リレーを福島県から始めるなど、東日本大震災の復興に寄与する五輪をうたう。では被災県民の心情は- […]

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偶像ではないけれど

(2019/03/01 うえの掲載)

 仏教はけっして偶像を崇拝する宗教ではない。それにしては、じつに多種多様の仏像を造形したものだが、冷静に考えれば、だからこそそれは偶像ではないのである。  『広辞苑』によれば、偶像とは「伝統的または絶対的な権威として崇拝 […]

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僧衣と運転

(2019/02/28 東京新聞ほか掲載)

 昨年九月十六日、浄土真宗本願寺派に属する四十代の僧侶が、「僧衣で運転」していて福井県警に反則切符を切られた。「運転に支障がある衣服」を禁じた福井県規則への違反だというのだが、その後の県警の説明によれば、問題なのは僧衣そ […]

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仮設トイレでの快哉

(2019/02/17 福島民報掲載)

 シナイ半島への陸自派遣が決まった。二回目の米朝首脳会談も決まり、日ロの領土交渉も大詰めに向かいつつある。世の中を見まわすと息苦しい出来事に満ち、また私も原稿の〆切が間近に迫っていたのだが、二月十日のお寺ではそれどころで […]

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人生後半、はじめまして

(2019/2/25 週刊現代ブックレビュー掲載)

 岸本さんの文章の魅力は、理路整然として、しかもスキップするような独特のリズムにある。しかしそのスキップのために、彼女がこれほど努力しているとは知らなかった。筋肉や骨はむろんのこと、歯や眼の衰えにも対処し、努力を惜しまな […]

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さようなら

(2019/01/30 東京新聞ほか掲載)

 日本人の挨拶はとても味わい深いと思う。「こんにちは」では昨日までと違う今日が期待され、今日こそ心機一転また出直すことが促される。仏教的には「寂滅現前」で、昨日までの自分を寂滅させ、新たに生まれ直すのである。震災後は特に […]

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「両行」とこころのレジリエンス

(2018/12/05 精神療法掲載)

 この国の諺(ことわざ)を眺めると、対立する意味合いの諺が必ずと言っていいほどあることに気づく。たとえば「善は急げ」と「急がば廻れ」、「嘘も方便」と「嘘つきは泥棒の始まり」、「一石二鳥」と「虻蜂取らず」、「大は小を兼ねる […]

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金と銀

(2018/11/30 東京新聞ほか掲載)

 その昔、金と銀とは対等で別な価値と考えられていた。貨幣に用いた基準も、西日本では銀本位、東日本では金本位だった。  両者を測れる共通の物差しはなく、金の価値観で見れば銀はくすんでいるが、銀にすれば金の光り方など嫌らしい […]

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ネットとキノコ

(2018/11/25 日本経済新聞掲載)

 裏社会、というと、普通はヤクザやマフィアの世界を想うことだろう。しかしここで私が言いたいのは「ネット社会」のことである。最近はバッシングといえば自ずとネット上のことを想像する。いじめの多くもネットを介して行なわれている […]

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