エッセイ
日曜論壇 第111回 環境整備
(2023/08/06 福島民報掲載)
ここ十年以上、うちのお寺では境内や墓地に草を生やす努力を続けてきた。長年草を毟(むし)りつづけた土壌は硬くなり、雨を吸い込めなくなって桜の下枝が枯れはじめたからである。 草や苔(こけ)の生えた地面は柔らかさを取り戻し […]
特集 草野心平 死んだら死んだで生きてゆくのだ。
(2023/07/14 詩とファンタジー No.46掲載)
草野心平さんと聞けば、やはり蛙を憶いだす。たしか大学生の頃に国立劇場で声明(しょうみょう)の会があり、そこで高野山の僧侶による「かえるの歌」を聞いた。これがあまりに衝撃的だったのである。 そのとき比叡山の僧たちは伝統 […]
天真を養う 第16回 無常と循環
(2023/07/01 墨 2023年7・8月号 283号(芸術新聞社)掲載)
仙厓 「滝図自画賛」 紙本墨画 一幅 136.2×30.2 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」と『方 […]
日曜論壇 第110回 危険な便利さ
(2023/06/04 福島民報掲載)
このところ、平穏な日常を突然脅(おびや)かすような事件が相次いでいる。「ルフィ」の指示による全国の強盗事件、あるいは銀座の店での白昼の狼藉(ろうぜき)など、何の因縁もない人々を突然に巻き込む凶悪犯罪である。安全でモラル […]
特集 宗教×文学 宗教って何?
(2023/05/31 季刊文科92号掲載)
数年前、カトリック教会の神父さんたちに招かれて講演する機会があった。講演の前後に伺った話では、日曜学校に人が集まらなくて困っているという。恰度東日本大震災の二〇一一年頃からスマートフォンが爆発的に普及しはじめたが、時期 […]
天真を養う 第15回 なんとかなるさ
(2023/05/01 墨 2023年5・6月号 282号(芸術新聞社)掲載)
「五言草書幅」 愚極礼才 紙本墨書 一幅 91×31 ふくやま書道美術館蔵 宋代に達磨関係の文書をまとめた『少室六門集』に次の文章がある。「吾れ本(も)と茲(こ)の土(ど)に来たり、法を伝えて迷情(めいじょう)を救う。 […]
日曜論壇 第109回 文化の力
(2023/04/02 福島民報掲載)
ロシアがとうとうウクライナの図書館を破壊しはじめた。いわゆる「焚書(ふんしょ)」で、ウクライナを文化ごと滅ぼそうというのだろう。 焚書といえば始皇帝の「焚書坑儒(こうじゅ)」を憶(おも)いだす。実用書以外の諸子百家の […]
同期の桜、桜の同期
(2023/03/01 うえの 2023年3・4月合併号掲載)
冬の境内を歩いていると、よく桜の枯れ枝を見つける。木枯らしに耐えかね、折れたのだろう。土に還ることを想い、私はそのまま歩き去る。昔から「桜切る莫迦、梅切らぬ莫迦」などと言うが、桜の古枝はこうして厳しい自然が静かに淘汰し […]
天真を養う 第14回 「坐」ってリセット
(2023/03/01 墨 2023年3・4月号 281号(芸術新聞社)掲載)
日本人の日本人らしさとは何なのかと、たまに考えることがある。昔の答えは「布団の上げ下ろし」と「正坐」だった。オンドルに布団を敷いたままの韓国人と、北宋の時代からベッドを使った中国人に対し、日本人はつい最近まで布団を上げ […]
日曜論壇 第108回 粘り強い知力
(2023/01/29 福島民報掲載)
先日、双葉町の東日本大震災・原子力災害「伝承館」で、二日にわたる興味深い催しに参加した。初日は伝承館の上級研究員である開沼博さんと私との対談、そして夜の懇親会を挟み、二日目は参加者も交えた全員の「対話」である。開沼さん […]
『紫野』連載エッセイ 第2回 授戒と白木槿(しろむくげ)
(2023/01/01 『紫野』第62号(臨済宗大本山大徳寺)掲載)
先日、三年前に旦那さんを亡くされた奥さんが、自分も受戒して戒名を授かりたいと、手紙をくださった。早速日程を決め、授戒会を行なったのだが、私自身「戒」について考える良い機会だったのでご報告したい。 戒は本来、生前に授か […]
天真を養う 第13回 「一」という体験
(2023/01/01 墨 2023年1・2月号 280号(芸術新聞社)掲載)
清巌宗渭筆「一」一大字 清巌宗渭 慶應義塾蔵(センチュリー赤尾コレクション) https://objecthub.keio.ac.jp/object/298 最近は自他の違いに目を向け、多様性を尊重するのがトレンドらし […]