書評
喪失から創作へ
(2020/01/15 理学療法ジャーナル掲載)
一級建築士として活躍していた村越さんは、近所の公園でジョギング中に脳出血を起こし、入院生活を余儀なくされる。六十歳という働き盛りのことでもあり、そのショックは大変なものだっただろうと推察する。 この本は、村越さんが五 […]
悟りと未悟
(2019/11/28 新潮社 波 2019年12月号掲載)
珍しいテーマの本である。いわゆる「悟り」についての学問的研究書。なるほど仏教はインドの昔から、いわゆる覚醒体験を重視してきた(BuddhaはBudh〖目覚める〗の過去分詞)。特に私の所属する臨済宗はその念入りな承認(印 […]
虫愛づる科学者
(2019/10/25 中村桂子コレクション第4巻第3回配本の月報掲載)
昔から、格好いい方だと思ってきた。最初はテレビに出ていた白衣姿やその美貌の影響が大きかったかもしれない。「生命科学」という素敵な言葉も、中村先生の肩書きで初めて知ったような気がする。 最初にお目にかかったのは二〇〇六 […]
人生後半、はじめまして
(2019/2/25 週刊現代ブックレビュー掲載)
岸本さんの文章の魅力は、理路整然として、しかもスキップするような独特のリズムにある。しかしそのスキップのために、彼女がこれほど努力しているとは知らなかった。筋肉や骨はむろんのこと、歯や眼の衰えにも対処し、努力を惜しまな […]
「レールの向こう」への覚悟
(2015/08/31 波掲載)
沖縄に出かけるたびに大城先生にお目にかかる。初めは二〇〇四年か〇三年か、巫女(ユタ)や神女(のろ)さんを御紹介いただき、『リーラ 神の庭の遊戯』という作品を膨らますことができた。モノレールにほど近いご自宅にもお邪魔し、 […]
「龍宮」の威力
(2013/10/28 本の旅人 11月号掲載)
俳句について、何ほどのことを知っているわけでもない私だが、それが落語と同じように、日本人への信頼を前提にした表現形式であることはわかる。たとえば芭蕉の「古池や~」の句でも、蛙が池に飛び込んだことはわかるが、「それがどう […]
「死」を孕む「生」の深さ
(2013/10/13 産経新聞掲載)
いったい道尾秀介という作家は、どこまで読者の想像力を信じ、挑みつづけるのだろう? 新刊『鏡の花』は、そう思わずにはいられない仕掛けに満ちていた。 一章でベランダから落ちて死んだはずの翔子が、四章では落ちずに高校生と […]
信じる人にも、信じない人にも
(2009/12/16 季刊scripta掲載)
この本のタイトルを見れば、たいていの禅僧は振り向くだろう。「精神の自由」とは、禅の中心テーマでもあるからだ。そして本を手にとって目次を見ると、簡潔な章立てだけが書かれている。曰く「宗教なしですませられるだろうか」「神は […]
油断した仏像たち
(2009/04/20 写真集「極楽園」掲載)
仏師は、あらかじめ木の中に眠っている仏の姿を彫りだすのだと云われる。ならばその仏像を撮る場合にはどうなのか。 三好和義氏の写真を見つめていると、これまでの仏像写真にはあまり感じなかった心の躍動を感じる。仏師がある姿を […]
白隠禪画墨蹟
(2009/03/23 「白隠禪画墨蹟」案内掲載)
芳澤先生は、白隠病である。この病気は白癬菌とは関係ないが、周囲にも感染する。 どうやら私もうつってしまったようだ。初めてお目にかかったとき、一緒に風呂にはいり、同じ部屋で寝たのが決定的だった。 禅師の墨蹟は、芳澤先 […]
最初の読者から ガンと自然への遠大な試み
(2008/02/01 一冊の本掲載)
田口ランディさんという方は、きっといろんな人や世界と親しくなる能力に恵まれているのだろう。彼女の書く小説では、いつも作者と登場人物が親しく、分身のようだと感じることも多い。 そんな彼女がガンそのものをテーマに描くとい […]
どこまでも平行線の宿命 切ない求道の物語「ジロリの女」
(2007/10/20 週刊KODOMO新聞掲載)
主人公の40代の男、ゴロー三船は、知的で気の強い女性を「ジロリの女」と呼ぶ。そういうタイプの女性は、心を見抜くように三船の顔を冷たくジロリと見るからだ。誰にでも軽口やお世辞を言う調子のいい男、三船は、苦手な「ジロリの女」 […]