岸本さんの文章の魅力は、理路整然として、しかもスキップするような独特のリズムにある。しかしそのスキップのために、彼女がこれほど努力しているとは知らなかった。筋肉や骨はむろんのこと、歯や眼の衰えにも対処し、努力を惜しまない。そしてとうとう、自作衣装を身につけたズンバの発表会まで行ってしまったのである。
体のいろんな衰えやIT機器の進歩への戸惑い、さらには美容や衣装、靴や住まいのリフォームのことまで、彼女はじつに誠実に悩み、それをスキップと共に披瀝する。独り暮らしの女性ならずとも、人生後半を迎える男女すべての貴重な参考書になることは間違いない。
正直なところ、私は僧侶だし帽子や靴や白髪がこれほど悩ましいとは思わなかった。女性って大変なんだなぁ、とも思った。その意味では特に男性諸賢に、女性の悩みを知る手がかりとしてお勧めである。
本文にもあるが、「生きていくこと全般がたぶん自転車操業」だ。スピードは落ち、時には降りて歩くこともあるかもしれないが、岸本さんは一方では筋トレやズンバに励みつつも、他方では「半日ツアー」に参加したり、温泉に泊まったり、懐かしい店を訪ねる「ゆとり」も設けようと勧める。また時には「サボってみれば」と、これまでの岸本さんらしからぬ境地も示す。つまり後半の人生とは、やはりあらためてじっくり考え、意志的に豊かにしていくものなのだろう。
ときおり顔を出すお金の専門家の言葉、「高齢者のために何かしているか」で、彼女も読者も思わず自転車を降り、立ち止まる。考えた末の彼女の結論はここには書くまい。ともかく彼女は年をとることの贈り物もしみじみ嬉しく受け取りつつ、すべてに前向きである。「知らないことを知るのは面白く、それじたいが快感なのだ」と、彼女は老いも衰えも未知なる発見に満ちた世界だと見る。
筋金入りの前向きさに、思わず自分の自転車操業のやりかたを考え直す一冊である。
2019/2/25 週刊現代ブックレビュー