エッセイ
日曜論壇 第120回 折れ松
(2025/04/06 福島民報掲載)
こんな言葉は見たことも聞いたこともないが、そうとしか言いようのない事態が起きた。じつは二月の強風で庭の赤松が折れ、池に向かってほぼ直角に倒れた。樹齢およそ二百年、庭師さんが毎年足場を組んで丹精してきた松だが、今や枝先が […]
天真を養う 第26回 春は花
(2025/03/01 墨 2025年3・4月号 293号(芸術新聞社)掲載)
一行書「花開万国春」 池大雅 江戸時代 18世紀 紙本墨書 1幅 126.9×27.0 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp) 「春は花」は常套句だが、それもその […]
夢見る「老衰」
(2025/02/10 がん研有明友の会会報「有明の風」64号掲載)
ここ数年、長く不動だった日本人の死因に大きな変化が現れている。一位悪性新生物(がん)、二位心疾患は変わらないものの、三位だった脳血管疾患が四位に後退し、浮上したのは老衰である。概して言えば、がんと老衰は徐々に増えつづけ […]
日曜論壇 第119回 仏像の時価?
(2025/01/26 福島民報掲載)
昨秋、私が兼務しているお寺で仏像が盗まれた。総代長からの連絡で行ってみると、離れたお堂の入り口の錠(かぎ)が壊され、三体の仏像と古い燈籠の上部が跡形もない。本堂のほうも、本尊さまをはじめ同じ棚に置かれていた幾つかの仏像 […]
天真を養う 第25回 不生の仏心
(2025/01/01 墨 2025年1・2月号 292号(芸術新聞社)掲載)
墨蹟「不生」 盤珪永琢 江戸時代 17世紀 紙本墨書 29.7×56.0 九州国立博物館蔵 出典:ColBase 臨済禅は、白隠(はくいん)禅師が中興の祖とされ、今に伝わるのは全て公案を用いるその流れだけになってしまっ […]
日曜論壇 第118回 山のあなた
(2024/11/17 福島民報掲載)
以前私は、人が住む場所によって物の見方にどんな影響があるのか興味を持ち、『四雁川流景』という短編集を書いたことがある。水の豊かな架空の町で、湿地帯や盆地の中央部、坂の途中や丘の上、あるいは古代の墓地跡に建てられた高層ビ […]
天真を養う 第24回 造作すること莫れ
(2024/11/01 墨 2024年11・12月号 291号(芸術新聞社)掲載)
慈雲飲光筆一行書 慈雲飲光 18世紀 紙本墨書 一幅 93.5×25.4 慶應義塾蔵(センチュリー赤尾コレクション) 第二回ではお茶に絡め、仙厓(せんがい)和尚の「無事」を扱ったが、今回の書はその大元である「無事是貴人 […]
日曜論壇 第117回 電力地獄
(2024/09/08 福島民報掲載)
県内外へ約16万人が避難した原発事故から13年半、今も2万5千人以上の人々が事故以前とは別な場所で暮らしている(県外避難者は2万人強〔R6,5/1時点〕)。あの事故以後の我々は、今後の電力の在り方についても相当真剣に考 […]
天真を養う 第23回 兎角の杖、亀毛の拂子
(2024/09/01 墨 2024年9・10月号 290号(芸術新聞社)掲載)
一行書 「龜毛拂」「兎角杖」 木庵性瑫 江戸時代前期 各136.2×37.9 愛知県美術館蔵(木村定三コレクション) 一瞬「鬼の角」かと思ったがそうではない。「兎の角」である。「兎角亀毛」という禅語があり、あり得ない […]
「待つ」ということ
(2024/07 『紫野』65号(お盆号)(臨済宗大本山大徳寺)掲載)
このところ通信手段が発達し、「待つ」必要がなくなってきた。と言えば、便利で素晴らしい世の中のようだが、逆に言えば人がどんどん待てなくなっている、ということでもある。 昔の手紙なら返事が届くまで十日ほどは待てた。しかし […]
稲垣えみ子著『寂しい生活』 文庫版解説 「寂滅為楽」とその後
(2024/07/11 『寂しい生活』稲垣えみ子 解説掲載)
ご本人も仰(おっしゃ)るように、この本は大いなる「冒険譚(ぼうけんたん)」である。読み始めたらそう簡単にはやめられない。私の場合は途中お葬式が二件あったので中断したが、ヘタをすると親の死に目に会えない可能性もある。危険 […]
日曜論壇 第116回 ソーラーパネルと熊
(2024/06/30 福島民報掲載)
ここ数年、町場での熊の出没が激増している。環境省によれば、昨年度の熊による人的被害は、十九道府県で計一九八件、二一九人で、統計のある二〇〇六年以降最多だった。 北海道や東北北部はむろんだが、福島県でも会津地方を中心に […]