エッセイ
日曜論壇 第115回 散華
(2024/04/21 福島民報掲載)
「願わくは花の下(もと)にて春死なむその如月(きさらぎ)の望月(もちづき)のころ」、西行法師はそう詠(うた)って、二月十六日に亡くなった。お釈迦(しゃか)さまと同じ如月(旧暦二月)の望月(十五日)の頃に往(ゆ)きたかっ […]
天真を養う 第20回 福の海
(2024/03/01 墨 2024年3・4月号 287号(芸術新聞社)掲載)
一行書「福海無量」 慈雲尊者 江戸時代 紙本墨書 90×31.1 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) いったいどんな筆で書いたのか、そう思わずにいられない墨 […]
日曜論壇 第114回 デリケートな復興の行方
(2024/02/11 福島民報掲載)
元日の夕方、私は町内の神社でお参りしたあと、仁王門の下に立ったまま急な揺れを感じた。頭上の梁(はり)がギシギシと鳴り、地面も振動し、すぐに女房のスマホから警報音が聞こえた。そして能登半島方面の地震であることが告げられ、 […]
天真を養う 第19回 把不住(はふじゅう)
(2024/01/01 墨 2024年1・2月号 286号(芸術新聞社)掲載)
雲居希膺禅師墨蹟「莫妄想」 雲居希膺禅師 紙本 26×57 東園寺蔵 なんというか、じつに清々しいというか、首筋が伸びるような墨跡である。余計なことを考えずに書いているのが直截に伝わる。思えば「莫妄想(まくもうぞう)」 […]
龍の休息
(2024/01/01 うえの 2024年1月号 イラスト H.OHUCHI掲載)
古代中国の人々は、天空の変化の原因を龍の動きのせいだと考えた。雲、雨、雷や風もそうだ。「風」という文字の内部の「虫」は龍のことで、「鳳」+「虫」で「風」になった。また「虹」も一種の龍と見たため、「虫偏」なのである。 […]
日曜論壇 第113回 桃太郎のユーウツ
(2023/12/10 福島民報掲載)
十二月七日、久しぶりに小説集が上梓(じょうし)された。タイトルは標題の『桃太郎のユーウツ』(朝日新聞出版)。この八年余の小説をまとめたものだから、やはり嬉(うれ)しい。今日はこの件について書いてみたい。 そもそも桃太 […]
写真集 つきをゆびさす 前文 指の真面目(しんめんもく)
(2023/10/10 写真集 つきをゆびさす掲載)
下瀬さんの写真をしばらく眺めているうちに、なんとなく「偶然と必然」という言葉が浮かんできた。偶然に満ちた現実に、広く開かれた心の門戸を感じると同時に、それを扱う手つきと技術には必然とも言うべき方向性と手堅さが見える。そ […]
天真を養う 第18回 「今ここ」の歓喜
(2023/11/01 墨 2023年11・12月号 285号(芸術新聞社)掲載)
智入三世而無来往 月船禅慧 成田山書道美術館蔵 わが三春町には享保の頃、豆腐屋が百八軒あり、索麺(そうめん)打ちが二十三人いたという。人口六千五百人程度の町には些か多すぎるが、これは恐らく安居(あんご)のための備えだろ […]
日曜論壇 第112回 成熟した精神
(2023/10/08 福島民報掲載)
自室から眺める竹林に、大きな水木(みずき)が見える。東北では「こけし」作りに使われる木で、早春に大量の水を吸い上げるため枝を切ると水が流れ出る。それで水木と呼ぶらしい。階層状の白い集合花も清々(すがすが)しいが、秋に葉 […]
天真を養う 第17回 言中響あり
(2023/09/01 墨 2023年9・10月号 284号(芸術新聞社)掲載)
隠元隆琦筆一行書 隠元隆琦 慶應義塾蔵(センチュリー赤尾コレクション) この連載の何よりのありがたさは、思いもよらぬ凄い墨跡に出逢えることだ。今回も隠元和尚の雄渾な書に接して歓喜した。しかもこの言葉、私の大好きな言葉で […]
日曜論壇 第111回 環境整備
(2023/08/06 福島民報掲載)
ここ十年以上、うちのお寺では境内や墓地に草を生やす努力を続けてきた。長年草を毟(むし)りつづけた土壌は硬くなり、雨を吸い込めなくなって桜の下枝が枯れはじめたからである。 草や苔(こけ)の生えた地面は柔らかさを取り戻し […]
特集 草野心平 死んだら死んだで生きてゆくのだ。
(2023/07/14 詩とファンタジー No.46掲載)
草野心平さんと聞けば、やはり蛙を憶いだす。たしか大学生の頃に国立劇場で声明(しょうみょう)の会があり、そこで高野山の僧侶による「かえるの歌」を聞いた。これがあまりに衝撃的だったのである。 そのとき比叡山の僧たちは伝統 […]