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向かい合った人に共振していく ―第125回芥川賞に決まった臨済宗僧侶―

 二回目の候補での受賞の報は、福島県郡山市内で友人と「二匹目のドジョウを囲む会」を開いて待ったという。
 「二匹目のドジョウが笑ったということで、とてもうれしい」
 読経で鍛えた太い声で喜びを語った。
 受賞作「中陰の花」は、成仏ということを考え始めた僧侶を中心に、光を見る体験、虫の知らせなど、普通の生活の中で無視できない不思議な感覚を丹念に拾って、小説世界を構成した。題名の「中陰」は「中有」とも言い、亡くなってから四十九日、成仏までのこの世とあの世の中間の状態を指す。
 選考委員の河野多恵子氏は「臨終や成仏について文学作品でなければできない深い表現をした」とたたえた。
 福島県三春町御免町の禅寺で生まれた。小説は二十代のころ書いていたが出家のため中断、一昨年から再開した。受賞作は雑誌発表三作目。霊験あらたかな温泉、骨を食べる供養、今回の不思議な感覚と「僧侶にあるまじき」題材を扱ってきた。
 「枠組みに関係なく、現場では向かい合った人に共振していくことが大事です。キリスト教も神道も知っていた方がいい」。そんな日常の姿勢が文学に反映している。
 受賞作で主人公の妻は包装紙の紙縒を何百本も作って大きなネットを編む。作中の重要な装置なのだが、その編み方が非常にリアルに描かれる。
「女房が繊維造形家なので参考にしました」と少し照れた。

2001/07/18 毎日新聞掲載

タグ: 中陰の花, 芥川賞