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あの日あの時~思わぬ評価が励みに~

 型破りな存在として、忘れられない先生がいます。
 高校時代の地理の菅野先生。ある定期試験の際、問題がさっぱり解けなくて、「もう零点でもいいや」と解答するのをやめ、用紙の裏に自分がその時思っていたことをびっしり書いて提出したことがありました。
 いろんな本を読んでいた時期だったので、とにかく書いた。問題には一切解答しなかったのに、菅野先生は八十点をくれたんです。驚きましたね。地理と関係なくても、面白いと思って評価してくれたんですね。
 先生としての「規範」からは大きく外れているかもしれないけれど、受験に向かう以外のベクトルやエネルギーをも認める、幅のある先生だったと思うんですよね。
 受験を前にすると、それが人生そのものであるかのように思えてしまうんですけれど、あくまでその時期の「仮」の目的にすぎない。本当の目的というものが分ってくるのは、もっと後だと思うんです。五十になったころかもしれないし来世かもしれない。
 菅野先生はそういった意味でも、非常に長いスパンで生徒の人生をとらえてくれていた。あの破天荒な解答が、作家としての今につながったかどうかは分りませんが、ひとつの指向として認めてくれたんですよね。
 教師は生徒を育てるのが仕事だけれど、生徒一人ひとりが本来持っている「種」に手を加えるわけにはいかない。それぞれの種から出た芽が伸びていくために、水や光を与えることが教師の役割だと思うんです。あの「八十点」は、目先の開花を求めず種本来の指向性を尊重する、一つの形だったのかもしれませんね。

2002/9/17 河北新報掲載

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