私の住む福島県三春町は、福島第一原発から約45キロにある。原発近くで被災した私たちにとって、刻々と事態が悪化する原発事故に関する情報が圧倒的に不足している。
どのテレビ局も、原発事故の状況をほかの避難状況や被災現場の報告などと場面を切り替えながら報じている。記者会見などがあれば横並びになる。この非常事態に、どこか1局でいい。原発事故に特化して正確な情報をリアルタイムで報じるべきだ。
三春町では、津波被災者や避難指示が出ている原発の半径20キロ圏内から逃げてきた避難民を受け入れてきた。町民約1万8千人も、自宅損壊など深刻な被災者であるにもかかわらず、震災直後から町をあげて炊き出しなどの支援を続けてきた。「沿岸部の被災者の深刻さに比べれば、私たちの被害はたいしたことない」と奮闘している。
三春町内の受け入れ限度は600人程度だが、一時は8避難所に3千人が避難してきた。その後、三春町も安全ではないのではと考え、他地域に逃れた人も多く、17日朝現在、約1170人がとどまっている。支援する町民の態勢も限界にきている。鍋や釜、食材などを避難所に提供し、避難している人たちに自炊してもらうよう要請した。
ニュース番組の解説者や専門家は、原発事故について、なお希望的な見方をしているように見える。必要なのは根拠の乏しい見立てではなく、正格で迅速な情報だけだ。パニック誘発を避けて情報を抑えているのなら、そういう次元はとうに過ぎている。
正確な情報と共に、せめて病院や緊急車両用の燃料、そして薬を届けてほしい。三春町だけではなく郡山市などの各病院も、気温0度前後の中、燃料不足で暖房が止まっている。薬も圧倒的に不足し、新たな患者を受け入れられない病院もある。
私の父は郡山市の病院に長期入院している。その病院から17日、緊急連絡があった。原発事故が最悪の局面を迎える事態を想定して、「いざという時にどうしますか」というのだ。
原発から離れた転院先を探す余裕はないという。最悪の局面を病院で迎えるのか、今のうちに自宅に戻すかという判断を迫られているのだ。医師たちこそ、彼らの生き方にかかわる選択を迫られているのだろう。
このような状況下でも、三春町には自治体や企業から支援物資が届いているが、家屋の応急修繕用のブルーシートや大人用の紙おむつが足りない。屋内退避区域に向けた物資もあるが、原発事故を懸念して三春町から先まで届ける人がいない。屋内退避中の住民たちに、誰がどうやって届けるのかが喫緊の課題だ。
政府は屋内退避指示の範囲を変えていないが、本当にそれでいいのか。原発から30キロ圏外ならば、このままとどまっていても安全だという根拠は何なのか。いつまでとどまっていていいというのか。
現場はとにかく情報が交錯している。原発近くにいる我々は、この国の指示を本当に信じていいのかどうかという、自問の渦中にある。
2011/03/19 朝日新聞掲載