私の寺は福島県三春町にあり、強震でお墓や六地蔵が倒壊した。幸いライフラインは生きており、福島原発の危機から逃れた1千人を超す人々が避難所で暮らしている。被災者が被災者のお世話をする困難な状況だが、仏の心が至るところで芽生えていると感じている。
臨済宗の名僧、白隠禅師は「南無地獄大菩薩(ぼさつ)」と大書した。「地獄」への怖れが人々の菩提心を醸成するという意味だ。日本人はこの天災で菩提心をおこし、やがて克服するだろう。しかし、原発に関しては、曖昧な情報が地域の人々の暮らしを苦しめている。正確な情報を迅速に伝えていただきたい。
私たちは今、未曾有の大量死に言葉を失っている。肉親のご遺体を確認できずに悲嘆されている方々の心中は察するに余りある。予期せぬ事態ではあるが、郷土の自然のなかに迎えられたとお考えいただきたい。
今、この国には形式化、儀式化されない、むきだしの祈りがあふれている。最も純粋な、祈りの原点ともいうべき心性が、困難な人々の支えになると信じている。
2011/03/25 日本経済新聞掲載