放射能漏れが続く東京電力福島第一原発。政府や東電は、事故処理について記者会見を開き、さまざまな数値を公表する。メディアもそれを報じているが、地域住民をはじめ世界の人々に「必要な情報」を提供しているだろうか。住民の避難指示を決定する放射線量や、放射能汚染水の放出量などを断片的に聞いても、わかりにくいとの指摘もある。第三者が伝えるべき情報とは――。
芥川賞作家で福聚寺住職の玄侑宗久さん(54)が住む福島県三春町は、原発から西約四十五キロにある。日本三大桜の一つ、ベニシダレザクラの巨木「三春滝桜」の開花季節。例年なら春めいた雰囲気が漂うのに、住民は原発事故の脅威におびえ、情報不足をひしひしと感じているという。
隠されると疑心暗鬼に
「原発事故の情報は誰に集約されているのか。ある国会議員に聞いたら、海江田万里経済産業相だというが、表に出てこない。枝野幸男官房長官、原子力安全・保安院、東京電力の三者がばらばらに発表している。どれを信用すべきかが分からない。すべての情報を一元化してくれれば、混乱しなくてすむ」
玄侑さんは、情報を隠されると疑心暗鬼を生むとして「データは解釈を加えずにそのまま出してほしい」と力説する。
放射性物質の拡散予測でも、気象庁は毎日計算しているが最近まで公表されなかった。その理由は「文部科学省の拡散予測を政府は正式なものとしており、違う情報を出すと混乱すると考えたという。そんなものは文科省と気象庁の間で横の連携をとればよいだけのことです」
農産物の放射性物質の暫定規制値でも、政府は当初、出荷停止を都道府県単位で設定。ある地点で規制値を上回る作物があると、県内一律で出荷停止になった、福島県須賀川市のキャベツ栽培の男性(64)は、自ら命を絶った。
玄侑さんは、県内各地の測定値を県から取り寄せて調べてみた。「発表されているのは、数多い調査地点の中で突出した値が出た地点だけ。その他の問題のない多くの地点については広く発表しなかった。県の出したリストの詳細を報道しなかったメディアの責任もあるだろう」と手厳しい。
政府は四日になって、出荷停止地域を市町村単位に変更したが、風評被害はすでに広がっている。
「直ちに健康に影響が出るものではないとしながら、一律に出荷停止とすることにも矛盾を感じる。それなら、空気中の放射性物質の値はどうなのか。本当に健康に影響はないのか」と不安感を訴える。
住民避難についても不満がある。「予防的な措置としては二十キロ圏、二十~三十キロ圏と同心円で機械的に区切るのもやむを得ない。その後の避難行動では、地元行政と緊密に連携し、コミュニティーを分断しないような判断をしてほしい。そうしないと若い人は避難して、年寄りは残るというような家族の分断まで招いてしまう」という。
玄侑さんは「住民は目に見えない放射線という観念的なものに恐怖を抱いている。精神的なストレスから具合が悪くなる人も出ている。御用学者でもない、反原発学者でもない、公正中立な意見を知りたがっている。メディアはそういう情報を発信してほしい」と注文する。
2011/04/08 東京新聞掲載