何の取り柄もなく、「無事これ名馬」と自分をなぐさめる人生を送っていたのに、ちょっとした手術を受けることになりました。全身麻酔をかけるのだそうです。いつもは自分の年齢を「二十八歳」とごまかすのに、今はそんな余裕もないほどどきどきです。
全身麻酔自体がどきどきですが、それ以上に、麻酔で徐々に意識を失う「私」、意識を失って手術台に横たわる「私」を想像すると、なんだかこわい(ふだんはお酒を飲んで、簡単に正体をなくすくせに)。その時いったい「私」とは何であり、どこにいるのか。そもそも「私」とはなにか。そんなことまでぐずぐずと考え始めてしまい、入院を前に精神状態は「なんだかいやなかんじ」です。
でも愚考するうちに、この「いやなかんじ」が、子どものころからずっと抱いていた「死んだらどうなる? どこに行く?」という疑問に近い気がしてきました。そうか、修行が足りなかった。今は自分の生と死について、一歩踏み込んで考える時だ。いいチャンスなんだ。
そう思うようにしましたら、ちょっと気が楽になりました。玄侑さんのご本を読みかえして、人生もう一度やり直しです。病室に持っていきます。ありがとう。