ずっと待っていたのだった。
一年じゅうむけられる、あまたのレンズから、不忍の蓮はようやくひとりを見つけた。憑かれた写真家は、一万七千回、シャッターを押すはめになった。
まんまとフィルムにのりうつると、池を抜け出し、ふたたび迷わず、一本の筆にたどり着いた。北国に住む作家もまた、上野をさまようこととなった。
ふくらんで、開いて、閉じて、枯れて朽ちる。植物の業が、ひとに呼吸をあたえた。
……本気だと感じた人の思いが、まるで圧縮ファイルがインストールされるように、すぐに自分のなかに移り、そして自動的に解凍されて起動しはじめる気がする。
主人公のことばは、一冊にかかわった、それぞれの身のうちにおきた波だった。やはり縁は、人為のものではなかった。
たしかにつながれた水面で、蓮は安らぎ、目を閉じる。
2005/11室内
書籍情報
 
              題名
                祝福
                著者・共著者
                
                出版社
                筑摩書房
                出版社URL
                
                発売日
                2005/9/9
                価格
                
                  1600円(税別)
                  ※価格は刊行時のものです。
                
                ISBN
                9784480803900
                Cコード
                C0093
                ページ
                128
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