初夢は、一月二日の晩に見る夢。佳(よ)い夢が見られるようにと、江戸時代には印刷された七福神の絵を枕の下に入れて寝たという。そこにはこんな回文(上下どちらから読んでも同じ文)が添えられていた。「長き世の遠(とお)の眠りのみな目覚め波乗り船の音のよきかな」(夜がいつまで続くのかと思わせる長い戦乱の世が終わり、目覚めれば宝船の進む穏やかな波音が聞こえる)ああ、これこそが平和、平和こそが宝か、という深い喜びの歌だろう。
しかし今年の初夢は、アメリカによるベネズエラ空爆によって破られた。またその後のトランプ大統領の発言で、長き夜がまた始まる予感に打ち拉(ひし)がれる。この際吾々(われわれ)は、あらためて七福神に込められた平和の意味を考えてみたいと思う。
七福神は、室町後期に能楽に登場する恵比寿、大黒、毘沙門、弁天の四神を原型に、江戸初期に三神を加えて成立した。それぞれの出身地を見ると、恵比寿が本朝(日本)、大黒、毘沙門、弁天が天竺(インド)、そして後に加わった寿老人、福禄寿、布袋が唐(中国)で、この三国が当時の「世界」を意味した。つまり七福神とは、三国の神が仲良く同じ船に乗る、世界平和を意味するアイテムなのだ。
日本代表が恵比寿一人では心許(もと)ないと思われるかもしれないが、恵比寿は蛭子(ひるこ)として海に棄てられても海を守る神になった。ハンディキャップを克服した偉大な存在として皆が一目置いているのだろう。
寿老人と福禄寿は南極星と北極星の化身であるため些(いささ)か似通うが、他はそれぞれ個性的で殆(ほと)んど共通点がない。そのため徒党を組まないのがこの七福の要諦である。今は中ソ・北朝鮮と自由主義圏など、グルーピングしてしまうが、それが平和に益するとは考えていないのだ。
徒党は組まず、リーダーもいない。つまりトランプ流の「力による平和」など認めないわけだが、ではいったいこれら癖の強い七人を仲良く船に乗せてしまう力とは何なのだろう……。
その秘密は最後に加えた布袋和尚にある。七人のなかでは唯一実在した中国唐代の禅僧で、いつも大きな袋を背負って遊行し、その中に頂いた物を入れ、時にサンタクロースのように福を授けたとされる。明日の天気を言い当てたため未来仏の「弥勒」として敬われるが、この人の本領は「哄笑(こうしょう)」である。「あんたワシとは違うけど、オモロイ奴っちゃなぁ、わっはっは」と何でも哄笑してしまうのだ。そのため「哄笑仏」とも呼ばれた。
インド伝来の『仁王経(にんのうきょう)』の「七難即滅 七福即生」が七福神の典拠とされるが、それは哄笑によって同時に叶(かな)うものだ。
人の数だけ考え方があり、国によって幸せの形も違う。気候変動で地球全体がまとまるべき時に、せめて人間も「哄笑」によって和合できないか。
2026/01/11福島民報
