賢者たちは、もう何年も前から口をそろえて、明治以降の日本の迷走に警鐘を鳴らし続けている。どうやら、近代化が始まって百数十年がたち、結論は出たようだ。私たちの歩いてきた道は、間違っていた、と。しかし、問題は、その近代化のツケにいまだ気がつかない人たちが存外に多いことである。賢者たちは、だから、苛立ち、発言し、絶望する。本書もまた、僧侶と解剖学の碩学である賢者が日本の歩みと日本人の行く末を案じ、何が間違っているのか、どこにターニングポイントがあったのか、を互いに触発し合いながら論じていく対談集である。
スポーツ、西洋と東洋、宗教、都市、自然、教育といった一見ばらばらなテーマが複合的に語られていくのだが、それらの解決の一つのキーワードとして「江戸時代」があることは間違いない。実際、たびたび江戸時代の素晴らしさに言葉は及ぶ。「だから僕は最近、今の日本の言葉を全部江戸時代の言葉にしたらどうかと思うんだよ。大学の評議会と評議員、あれは『年寄』って言えばいいんだ(笑)。社長って言わないで『親分』とかですね。代々続いている企業だったら『宗家』とかね。そういうふうに全部言い換える」(養老)。「それで教育の自転車操業が始まっちゃった。それ遡ったら、やっぱり明治に行っちゃうんだ。遠因は明治にありますよね、徳川三〇〇年やったことをみんななくしちゃったんだから」(養老)。2人の博識と見識に驚きつつ、読み終わる頃には背筋がぴんと伸びていることに気づく。
[読得指数]知識:★★★★★刺激:★★★★★希望:★★★
[読得指数]=この本を読んで味わえる気分を★1~5で評価
2005/03/05 ダ・ヴィンチ