禅僧にして作家の著者が、そのいずれの蓄積をも自在に駆使して書いた仙厓伝である。
仙厓は、江戸中期を生きた禅僧で、人を食ったような墨絵と書で広く知られているが、本書を読むとその値打ちがよくわかってくる。仙厓は美濃の貧農の子に生まれ、11歳でその地の清泰(せいたい)寺にやられ得度する。19歳で武州永田(現横浜市)の東輝(とうき)庵に入り、修行の日々を送るが、住職の地位を得られず、やがて諸国を放浪する。飢饉(ききん)と震災で地獄絵の観を呈する奥州、越後を回り、苦悶(くもん)の旅を続ける。壮年期の仙厓の絵筆は、対象への鋭い、深刻な把握力に満ちていて、驚かされる。
40歳で博多聖福(しょうふく)寺の住職となった仙厓は、寺の復興と土地の人々の救済に心魂を傾ける。この仕事を通じ、彼は次第に大きく円熟し、その画業は捉えどころのない融通無碍(むげ)を顕(あら)わすに至る。観(み)て、誰もが大笑いとなるような数々の絵は、博多での晩年のものだ。これらの絵に達する仙厓の道筋を、著者は、簡潔なスケッチのように描き貯(た)めていく。絵も禅もどうでもよくなった途轍(とてつ)もない男の姿が、そこに鮮やかに浮かんでいる。
2015/09/28 読売新聞
書籍情報
題名
仙厓 無法の禅
著者・共著者
出版社
PHP研究所
出版社URL
発売日
2015/6/12
価格
1500円(税別)※価格は刊行時のものです。
ISBN
9784569825168
Cコード
ページ
127
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