あっぷっぷ

 「あっぷあっぷ」と聞けば今にも溺れそうだが、「あっぷっぷ」は私の中では睨めっこの記憶に重なる。しかし現在の若い人々では、はたしてどれだけ睨めっこを経験しているのだろう。

ダルマさん ダルマさん 睨めっこしましょ
笑っちゃ負けよ あっぷっぷ

 私たちはそう言い合って口を閉じ、どちらかと云えば頬を膨らませてお互いの眼を見つめ合ったものだが、この遊びについて、「はにかみ」から解説したのが柳田國男だった。つまり日本人は、初対面の相手と眼を合わすとはにかんでしまう人が多いから、緊張をほぐし、目を伏せない勇気を養うために「目勝(めかち)」という競技を考えた。これが睨めっこの起こりだというのである。
 結末はご承知のように、どちらかが笑い、結局双方とも笑い合ってうちとけることになる。
 剣道をしていた私にすれば、睨み合い、勝負し、それからうちとけるのはごく普通のなりゆきだった。
 しかし最近はどうだろう。睨み合い、勝負したとなると、その後の関係が心配になる。子供の喧嘩に親が出ることは、昔は典型的な恥だったし、喧嘩はむしろ子供の社会的成長を促す訓練だと、誰もが思っていた気がするが、どうも近頃は勝負と喧嘩の区別もつきにくい。だいたい喧嘩は絶対悪だと思われていないだろうか。
 仲良しも平和も、もっと生のダイナミズムを包含し、喧嘩くらい大らかに包み込み、やがては笑ってうちとける間柄ではないだろうか。
 思えば初対面の人への「はにかみ」とは、根本的には相手への親愛や畏敬(いけい)から発していたから途中経過には鷹揚(おうよう)になれたのだろう。
 ゲーム機を消して目をあげ、まずは睨めっこで人間関係の練習をしてはどうだろう。「あっぷっぷ」をしていればやがて「あっぷあっぷ」せずに済むかもしれない。

2008/8/28 月刊武道掲載

トップへ戻ります