最近、政府が会議を開く以前に結論を決めているケースが目につく。「緊急事態宣言の解除」も専門家に諮ると言いながら、事前に「決定する見通し」と報道される。専門家をコケにしたこのやり方、いや、コケにされても怒らない専門家ばかり集めて何をしているのだろう。
トリチウム入りのALPS処理水については、昨年末までに処分方法を決める見通しだったが、政府の推進する「海洋放出」には県漁連などの反対も強く、結論を出すことを先延ばしにしていた。今後関係者から更に意見を聴取し、より良い方法を模索するものと思っていた。特に海洋放出した場合の風評被害については、漁業ばかりじゃなく農業や観光業にも大きく影響する。さまざまな対策を講じ、そこまでしてくれるなら歩み寄ろうという融和も生まれようというもの。
各国にも事前に諒承(りょうしょう)してもらうことが大切で、たとえば韓国や中国に対しては、「お宅の原発の現状はどうですか?」と事前に訊くことが肝要である。韓国では月城原発、古里原発が海洋放出と気体放出を行なっているはずだし、中国では大亜湾原発が海洋放出を続けているだろう。相手国の現状を確認し、身勝手な批判が出ないように準備する、それが「関係者の理解」を得るための必須の努力というものだ。そうした作業を実施し、とにもかくにも関係者に説明を尽くして理解してもらい、円満に結論を導きだす、それが民主主義国家の成熟した在り方ではないだろうか。
ところが今回も、いきなり結論である。しかも決定以前から「決定方針」が報道されていた。そもそも昨年二月以降、意見聴取のための公聴会は一度も開かれていないし、風評対策を何か行なったという形跡もない。当然のことだが、県漁連や全漁連は海洋放出「絶対反対」である。それに対して何もしないまま、政権内部で勝手に決めてしまったのである。世間ではこうした行為を「権力の横暴」と呼ぶのだが、現政府にそうした認識はないのだろうか。
新設された「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚会議」では、今後自治体や関係団体への説明や意見聞き取りを行ない、風評対策も年内にとりまとめるらしいが、まず順序が逆だし、あまりの暢気(のんき)さにも呆(あき)れるばかりだ。
風評というのは起こってしまったら簡単には消せないことを県民は熟知している。それでも十年かけ、試験操業とモニタリングを繰り返してようやく本格操業に漕ぎ着けた、その矢先の一方的な通告である。「寝耳に処理水」と言うしかない。
どだい、国や東電は風評対策を賠償問題としか思っていないようだが、漁業者が望むのは風評が起こらず、矜恃をもって漁業に勤(いそ)しめる環境ではないか。反対意見を無視し、沈黙のまま封じ込めるこの政権の作法は日本学術会議問題ですでに知ってはいたが、こうなるともはや立派な人権蹂躙(じゅうりん)である。
2021/04/25 福島民報