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天真を養う 第4回

内観の秘法

 前回に続き、白隠禅師の独自の教えに学びたい。禅師は八十四歳の天寿を全うしたが、生涯を通して頑健だったわけではない。二十六歳の頃「禅病」に罹り、「名医を探ると云へども百薬寸効なし」という状態に陥った。症状としては「心火逆上し、肺金焦枯して、双脚氷雪の底に浸すが如く~」と縷々(るる)『夜船閑話(やせんかんな)』に書いているが、現代風に言えば「のぼせ」があり、下半身が冷えきり、肺も患っていたらしい。発熱、幻覚、寝汗、涙目なども伴っていたから、心身症と呼吸器疾患を併発していたのではないだろうか。
 『夜船閑話』によれば、そんなとき京都白川の白幽子から「内観の秘法」を授かり、九死に一生を得たというのだが、それ以後「内観の秘法」は「見性」と共に松蔭寺僧堂の旗印になっていく。
 左の頂相(ちんそう)で禅師は弟子の智眼禅尼の需めに応じ、達磨大師に仮託してその要諦を説く。「若し人、長寿を保ち仏道を成ぜんと欲すれば、常に須く元氣を臍輪(ざいりん)に充たしめ、氣海丹田の間に氣を聚むべし。氣を聚むるの要は心を凝らすに在り。心凝れば則ち氣聚まり、氣聚まれば則ち丹成る。丹成れば形堅く、形堅ければ則ち神(しん)全し。神全ければ則ち寿(いのちなが)し」
 「丹」や「神」など道教用語もあって読みにくいかもしれないが、要は長寿を保つには、元氣(生命エネルギー)を臍輪(ヘソ)や氣海丹田に集めよとの教え。氣海とは臍下(せいか)半寸、丹田は臍下三寸のエリアとされるが、ここでは心を凝らし(意識を集め)やすくするため、臍下三寸の一点に絞ろう。そこに意識を集めれば元気も集まり、仙薬である丹もでき、身体堅固になり、最も微細なエネルギー物質である「神」も全身に充ちて、長生きが叶うという。
 こうして禅師は「上虚下実」の体質改変に成功したわけだが、禅師の伝えた(考案した?)「内観の秘法」全文は『遠羅天釜(おらでがま)』巻之上に収録されている。ここでは紙幅の関係で第四則のみを紹介するが、興味のある方は是非とも五則すべてを参照いただきたい。
 第四則「吾が此の臍輪以下丹田氣海及び腰脚足心(ようきゃくそくしん)、總(そう)に是れ吾が唯心の浄土。浄土何の荘厳(しょうごん)か在る」(わがこの臍下丹田から足心〈土踏まず〉まで、これぞわが内なる浄土である。この浄土はどのように荘厳されているのだろう)私も道場での坐禅中に暗誦したが、言葉を追ううちに意識は自然に臍下から下半身全体を覆い、やがて下半身が温まり、体内も見事な荘厳に思えてきて至福の時を味わう。
 言葉の意味を追わずにはいられない我々の煩悩を逆手にとった、秀逸な瞑想法である。ともあれ全身の中心である臍下にまず意識を集めること、それこそが体の安定、脱力、ひいては心の安らぎを導く基本。自律神経のバランスも調ってくるはずである。

2021/07/01 墨 2021年7・8月号(芸術新聞社)

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