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地方議会人2021年8月号 巻頭言

地方自治に思う「なにげない関わり」の再構築

問われる政府の本気度

 令和三年二月、政府は「孤独・孤立」担当大臣を任命し、その対策担当室を設けた。こうした部門に専門大臣を置いたのはイギリスに次いで世界で二番目らしいが、初代の坂本哲志大臣は「一億総活躍相」との兼務。政府の今後の本気度が問われている。
 安倍政権が「一億総活躍」を掲げたとき、「寝たきり」や「ひきこもり」の人々はどうするの、と思ったものだが、その意味ではようやく補完的な視線を併せ持つことが期待できるのかもしれない。
 とはいえ実際に当事者たちに向き合うのは大臣や国の官僚ではなく、地方の行政やNPOなどである。ここでは各地でどんな心構えでこの問題に向き合うべきなのか、少しく考えてみたい。

「望まない孤独」に封じ込められた人々

 まず言葉の問題で恐縮だが、国の使う用語は「安全・安心」などと重ねることで意味を曖昧にしてしまうことが多い。科学的基準であるべき「安全」と、心理的としか思えない「安心」を並べて使うから、科学の歪曲が起こりやすいのではないだろうか。「孤独・孤立」の併記にも一抹の不安を感じるのである。
 元々「孤独」の「孤」は幼くして父母なきこと、だから「孤児」と言い、「独」とは老いて子無きを云うため「独居老人」などと用いる。だから「孤」にはすぐにも救済の手が必要だが、「独」はそうとも限らない。「独立独歩」「独立自尊」の人もいるからである。
 また宗教的観点に立てば、孤独は神に向き合い、己に向き合うために必要なことで、むしろ敬意を以て見つめられる状況である。同じように「孤独」を求める仲間もいるし、これも当然対象外である。
 もとより人はどう転んでも孤独に死んでいくのだし、その意味では誰もが「孤独」である。してみると、ここで対象にすべきなのは「望まない孤独」に封じ込められた人々、いわば「孤立」した人々ということになるだろうか。

社会が生みだした「孤立」

 孤児でなくても虐待、いじめに遭って孤児同然の子供たちもいる。ひきこもり、離婚、リストラ、性犯罪被害やDV被害による孤絶も深刻だし、また老後の独居が寂しくてやりきれない人々も多いだろう。まずはこれらの孤立を、個人の責任ではなく、社会が生みだしたものと捉える必要がある。公助の活動はそこからしか始まらない。
 人の生きる周囲には必ず地域共同体というものがあった。日本では「世間」と呼ぶが、それは共助の担い手でもある。しかし歴史的には一種の監視組織になってきたこともあり、同調圧力も強いため、どこの国でもこれを希薄化する方向で現代文明を進めてきたのではないだろうか。つまり、共同体がなくても、いや家族さえなくても、「個」で生きられるように。
 スマホやSNSの発達、宅配便や家電や食品の仕様なども、今や「おひとりさま」向けが充実し、共同体との関わりなど殆んど無くても暮らせるようになっている。換言すれば、我々はどんどん「個」の生活の効率化を進め、人との「なにげない」関わりを削除してきたのである。「なにげない」関わりの減少は、誰でも子供時代と今を比較すれば明らかではないだろうか。 
 性別を問わずあらゆる年齢層に沁み入った「孤立」は、いわばシロアリに侵蝕された家のように土台を弱らせているのだろう。孤立した人々に共通するのは、おそらく「どうせ俺(私)のことなんか解ってもらえやしない」という絶望的な思い。特にコロナ禍では、理不尽な解雇や減収が立場の弱い人々を直撃し、女性の自殺が激増している。倒れそうな人を支え、崩れそうな家の土台を補強する営みが、今こそ早急に求められているのだ。しかしいったい、絶望的な思いを抱く人々にどうアプローチすればいいのだろう。

「なにげなく」繋ぐネットワーク

 私は「なにげなく」がキーワードだと思う。我々はあらためて「個」どうしを「なにげなく」繋ぐネットワークを作っていかなくてはならない。たとえば私の想像する「地域よろず相談所」では、臨床心理士や社会福祉士、産業カウンセラー、学校心理士、教員免許保持者などが自由に出入りする。また仕事を見つける手助けとして、農業、漁業、製造業、サービス業など、できるだけ多くの職場にも連携してもらう。子供たちの孤立には、お兄さんお姉さんとして関わる高校生や大学生にも登録してもらう。とにかく多分野横断でどんどん連携を拡げてゆき、その窓口としての連絡室を充実させる。お節介と思われがちなアウトリーチも厭うべきではないだろう。
 思えば日本人は中国語の「人間(じんかん)」(=世間)を一個人の意味で用いた希有な民族である。関係性こそが人間だと、はっきり認識していたに違いない。孤立を脱して新たな「人間」を生みだすため、予算が有効に使われることを念じたい。

2021/08/06 地方議会人

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