このところ、平穏な日常を突然脅(おびや)かすような事件が相次いでいる。「ルフィ」の指示による全国の強盗事件、あるいは銀座の店での白昼の狼藉(ろうぜき)など、何の因縁もない人々を突然に巻き込む凶悪犯罪である。安全でモラルも高いと言われたこの国が、根腐れを起こしはじめているような気がする。
原因を簡単に決めつけることはできないが、少なくともそこでは「お金」が求められ、仲間うちの連絡手段としてスマートフォンが用いられている。はっきり言えば、スマホがなければありえなかった事件が多発しているのである。
驚くのは、多くのケースで共謀した仲間どうしは元々の知人や友人ではなく、犯行現場で初対面だったことだ。いや、仮面越しだから対面すらせず、スマホで命じられた役割だけを演じて別れた、と言ったほうが正確かもしれない。まさに犯罪そのものの中心に、「闇バイト」を謳(うた)うネット交流サービス(SNS)があったのである。
アメリカ厚生省のマーシー医務総監は、5月23日、SNSが思春期のメンタルヘルスに「深刻な害」を及ぼす危険性についての報告書を発表した。これはSNSを「今日(こんにち)の決定的な公衆衛生問題」とみなし、有害なコンテンツや過度の使用から子供たちを守るため、使用規制など多角的な取り組みを勧告したものだ。
あくまでアメリカでの数字だが、13~17歳の95%、8~12歳の40%がSNSを使用し、11~15歳の女子は3分の1以上が「依存」を認めつつも「やめられない」と感じている。また1日3時間以上SNSを利用する子供は、うつ病や不安神経症などの危険も倍増すると、報告書は指摘している。
SNSは危険な事件に使われるだけでなく、それを使う人々(特に子供たち)自身を危険な状態にしてしまうようだ。自身の外見への不満を募らせ、自尊心が低下するなどの指摘もある。
むろん「アラブの春」を運んだのもスマートフォンである。SNSを表現の場として、少数者どうしの連帯に用いるようなケースも多い。一概に「なくそう」と言うのも無謀だろう。
防犯システムの会社はこれを好機とばかり活気づいているが、問題はやはりそれ以前にSNSの使用規制だろう。アメリカのユタ州では、運営企業にユーザーの年齢確認を義務づけ、18歳未満には親や保護者の同意なしにアカウントを利用することを州法で禁じたが、もう一歩踏み込んだ規制が日本でも必要ではないか。
原爆もチャットGPTもそうだが、人類は時にみずから使いこなせないものを作ってしまう。はたしてこの危険な便利さを、使いこなせるほど人類が成熟する時は来るのだろうか。
2023/06/04 福島民報