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東日本大震災10年 いま読むべき5冊

消える記憶 思い起こそう

 東日本大震災の記憶は、人によってそれぞれ違う。震災のつらい思いを忘れたい人もいる。ただ、震災10年を区切りとして、忘れている記憶をもう一度思い起こしてほしいという思いも私にはある。
 自分の体験とは違った新たな体験をするという意味で、北上市の俳人、照井翠さんの『龍宮』を挙げたい。句集なので一気に読めるが、震災当時、釜石にいた照井さんの体験はすさまじい。<朧夜の首が体を呼んでをり>。読んでいると思わず正座してしまう。
 いまの時代、コロナ禍を抜きには語れない。『病が語る日本史』は病気や感染症が世の中をどう動かしたのかが分かる。源氏物語の主人公や平清盛はマラリアにかかっていたという。著者は医学者で、東大大学院で歴史も学んだ。実によく調べている。日本史の読み方が一変するに違いない。
 震災でもコロナウイルスの問題でも、社会は格差がより広がる方向に動いている。その対応として政府は「自助」を中心に据え、共助、公助は二の次だ。それをどう考えればいいのか。
 参考になるのが『社会のしんがり』。地域の困窮者を支えるため頑張る人々、特に行政に携わる人々を中心に紹介する。現制度の中で、ここまで活動できるんだと教えてくれる。
 では、どういう社会を目指すのか。『仏教経済学』は新しい社会の地平を開く一冊だ。欲望と競争を前提にした資本主義経済から、仏教の知恵を用いた転換を促している。欲望のコントロールという仏教の中心的なテーマを視点に、あるべき経済の姿を説いている。
 震災から10年。拙著『光の山』は短編小説の連作だが、読んでいただければ震災の全体像が浮かび上がると思う。是非とも震災を追体験してほしいという願いを込めてお薦めしたい。

2021/03/08 河北新報

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