エッセイ
山繭さま
(2017/10/01 福島民報掲載)
この夏、女房が伊達市の「霊山こどもの村」で、繭(まゆ)を使ったワークショップを行なった。繭から純白の糸をほぐし、それを自分なりに膨らませた風船にもう1度巻きつけ、乾いたら風船を割る。すると自分だけの形の繭ができあがると […]
お墓と「くさはら」
(2017/09/30 東京新聞ほか掲載)
前回、熊本県の阿蘇の草原(そうげん)の美しさについて少しだけ触れた。じつは大雑把に草原といっても「自然草原」と「二次的草原」があり、阿蘇の草原は後者に属する。つまり自然のままに放置すればいずれ森林になってしまう場所が、 […]
「禅と骨」とミトワさん
(2017/09/02 映画「禅と骨」パンフレット掲載)
私とミトワさんの接触は、さほど多かったわけではない。禅寺では毎月朔日と十五日、「祝聖(しゅくしん)」といってこの国の安泰を祈る儀式を法堂(はっとう)でするのだが、天龍寺の雲水だった私は列の後ろのほうから向かい側に立つミ […]
こころの好縁会
(2017/08/31 東京新聞ほか掲載)
正確には覚えていないがおそらくここ数年以上、「こころの好縁会」と銘打った講演や対談の催しに毎年招かれている。主催が岐阜県の大興寺(だいこうじ)さんと中日新聞社であるため、これまでは中部地方で開催されることが多かった。岐 […]
喉仏の効用
(2017/07/31 東京新聞ほか掲載)
このところ、誤嚥性肺炎で亡くなる方が増えている。長年、死因の第一位はがん、第二位が心臓疾患、第三位は脳血管障害というのが不動の順位だったのだが、二○一一年に肺炎が四位から三位に上昇し、今も三位を保っている。実際には、が […]
「言った」「言わない」
(2017/07/30 福島民報掲載)
結婚して数年の頃か、「言った」「言わない」という論争ほど無益なものはないと悟り、記憶を頼りに正しさを主張するのはやめにした。どちらかの記憶が間違っていることもあるが、人の記憶はもともと曖昧なものだし、時と共に変質もする […]
稚児行列
(2017/05/31 東京新聞ほか掲載)
五月五日、子供の日に、わが三春町では恒例の稚児行列が行なわれた。大正時代から続く伝統行事だが、今年も快晴に恵まれ、のどかに平和裡に圓成した。 稚児行列とは、幼な子たちを仏さまの子供とみなし、その健やかな成長を願って行 […]
危うい優生思想
(2017/05/28 福島民報掲載)
デザインベビーという言葉が使われるようになって久しい。アメリカではノーベル賞受賞者の精子を高く買い、美人でグラマラスな女性の卵と受精させる、というのもあながち冗談ではないらしい。 神への冒涜、あるいは自然への挑戦と言 […]
月下氷人
(2017/04/30 東京新聞ほか掲載)
最近、じつは頼まれて仲人を務めることになった。今の若い世代は仲人など頼まず、神仏も頼まず、人前結婚などという気楽なスタイルが多いようだが、新郎がお寺の副住職ではそうもいかない。 つくづく思うのだが、結婚に至る手続きが […]
おおブレネリ
(2017/03/31 東京新聞ほか掲載)
先日、スイス在住の日本人音楽家たちのコンサートを開いた。主催は私が理事長を務める「たまきはる福島基金」で、スイス大使館や内閣府などの後援もいただいた。 アルト歌手の沓沢(くつざわ)ひとみさん、ピアノの岩井美子(よしこ […]
「ひよわな国」と移民の問題
(2017/03/20 やくしん掲載)
イギリスがEUという単一市場からの完全撤退を決定した。移民の問題が一番の要因だったようである。相互の人の流入を制限しないシェンゲン協定の方針にも同意せず、イギリスは物の出入り(貿易)だけは維持したかったわけだが、「それ […]
地方自治と脳の仕組み
(2017/03/15 地方議会人掲載)
通信網の発達により、地理的な距離が人間どうしの距離を意味しなくなってきた。遠くに住んでいても、ネットでの通信があるから親密な関係が保てると思いがちである。 しかし我々の頭には、やはり物理的な距離の遠近がどこかに意識さ […]
見えない輪
(2017/03/01 ノジュール掲載)
滝桜に向き合うと、私は時に「見えない輪」を二つ感じる。謎をかけるつもりはないので申し上げてしまおう。「見えない輪」とは、一つは年輪、もう一つはその子孫樹が描く巨大な円のことである。 まず年輪だが、当然ながらこれは伐ら […]
土と建物のおもしろい関係
(2017/02/28 東京新聞ほか掲載)
先日、庫裏の建築をめぐって今年初めての工程会議が開かれた。毎月たいてい一度は設計士の前田伸治先生(「暮らし十職」主宰)がお出でくださるのだが、この日も遠く伊勢から駆けつけてくださった。 いつも工程会議を進行する加藤工 […]
古梅園の墨
(2017/01/31 東京新聞ほか掲載)
先日、奈良トヨタから講演に招かれ、師走の奈良にお邪魔してきた。 社長の菊池攻氏は、毎回講演翌日に近隣の小旅行を計画してくださる。これまでにも東大寺や西大寺、信貴山や吉野の金峯山寺、あるいは壺阪寺など、滅多にお邪魔でき […]
デスモスチルス
(2016/12/31 東京新聞ほか掲載)
先日、久しぶりに北海道に行ってきた。帯広空港の北東にある本別町(ほんべつちょう)という小さな町、と言いたいところだが、人口は少ないが面積はやたらに広い。ちなみに隣の足寄町(あしょろちょう)は日本一広い町で、その面積は香 […]
鍋の功徳
(2016/12/01 てんとう虫掲載)
冬になると、鍋を囲みたくなる。鍋をつつくでも、鍋料理を頂くでもいいのだが、やはり鍋といえば「囲む」という言い方が似つかわしい。独りで囲むことはできないから、そこには当然家族の団欒があり、また客との交歓がある。 以前、 […]
南山に雲起こり……。
(2016/11/30 東京新聞ほか掲載)
禅語に、「南山に雲起こり、北山に雨下(ふ)る」という言葉がある。辞書によっては「雲を起こし」「雨を下(くだ)す」と訓じているが、これは中国語独特の表現であくまでも自発。他動詞的に訳すと余計な意味が付着する。 そんなこ […]
イスラム社会と向き合う
(2016/11/13 福島民報掲載)
イスラム社会の存在感がなんとなく増大している。しかも日本人には、ムスリム(イスラム教徒)についての知識が少ないから、IS(イスラム国)との区別もつかず、ただ怯えを増大させているかに思える。 イスラム社会といえば、すぐ […]